親が退院することになったら?自宅での介護が不安な家族が考えたい選択肢
親が入院することになり、ようやく退院の日が見えてきた。
「退院したら、また以前のように一人暮らしができるかな?」
そう考えていたものの、医師や看護師から退院後の生活について説明を受け、急に不安になったという方もいるのではないでしょうか。
私は回復期リハビリテーション病棟で働く看護師です。
日々患者さんと関わるなかで、退院後の生活について悩むご家族をたくさん見てきました。
この記事では、親が退院したあとに一人暮らしを続けられるのか不安な方に向けて、退院後の生活で気をつけたいことや、自宅以外の選択肢について解説します。
1. 入院前は一人で生活できていた親でも、退院後は注意が必要
入院前は一人暮らしをしていて、買い物にも自転車で出かけ、家事も自分でこなしていた高齢者の方は少なくありません。
ご家族は遠方で家庭を持ち、普段は離れて暮らしているというケースもあります。
これまで一人で生活できていたのだから、退院すればまた同じように暮らせるだろう。
そう考えるのは、自然なことだと思います。
しかし、病気やけがで入院したあと、以前と同じ生活に戻れるとは限りません。
入院中の治療やリハビリによって身体機能が回復しても、退院後の生活には、入院前にはなかった注意点や課題が残ることがあります。
2. 退院後の一人暮らしで心配なこと
では、具体的にどのようなことに注意が必要なのでしょうか。
身体機能が回復しても、転倒のリスクは残る
入院前と同じように歩けるようになり、自分でトイレに行けるようになったとしても、それだけで安全に生活できるとは限りません。
病気やけがの影響で筋力やバランス能力が低下していたり、動作の際にふらついたりすることがあります。
特に注意したいのが、夜間のトイレです。
寝起きでぼんやりしているときや、暗い廊下を歩くときには、日中よりも転倒の危険が高まることがあります。
もし転倒して自力で起き上がれなかった場合、一人暮らしでは、誰にも気づかれないまま長時間その場で過ごしてしまう可能性もあります。
「一人で歩ける」「トイレに行ける」ということと、「一人で安全に生活できる」ということは、必ずしも同じではないのです。
認知機能の変化によって、生活に支障が出ることもある
病気や入院をきっかけに、認知機能の変化がみられることもあります。
例えば、次のようなことです。
- 薬を飲んだかどうか分からなくなる
- 火の消し忘れなど、家事の安全管理が難しくなる
- 体調が悪くなっても、適切に対処できない
- 困ったときに、家族や支援者へ助けを求められない
もちろん、すべての方にこうした変化が起こるわけではありません。
しかし、歩行や身の回りの動作ができていても、生活全体を安全に管理することが難しくなっている場合があります。
病気の再発や体調の急変にも備える必要がある
脳梗塞や脳出血などの病気で入院した場合、退院後も再発予防や体調管理が大切です。
薬の管理や定期受診を続けることに加え、体調に異変があったときに、本人が気づいて適切に対応できるかどうかも重要になります。
一人暮らしの場合、体調が急に悪くなっても、近くに気づいてくれる人がいないことがあります。
そのため、退院後の生活を考える際には、身体機能だけでなく、緊急時に助けを求められる環境が整っているかどうかも確認しておきたいところです。
3. 「自分でトイレに行けるなら大丈夫」とは限らない
退院後の生活について、ご家族からよく聞かれるのが、「自分のことは自分でできるようになってから退院してほしい」という思いです。
できれば、身の回りのことが自分でできて、トイレにも一人で行ける状態で退院してほしい。
そう願うのは当然のことだと思います。
実際に、入院前に近い状態まで回復して退院される方もいます。
ただし、退院後の生活を考えるときには、身の回りの動作ができるかどうかだけで判断しないことが大切です。
例えば、次のような点も確認しておきましょう。
- 夜間でも安全にトイレへ行けるか
- 転倒したときに、自分で助けを呼べるか
- 薬の管理や食事の準備ができるか
- 体調の変化に気づき、必要な対応ができるか
- 困ったときに相談できる家族や支援者がいるか
大切なのは、病院でできている動作を確認するだけでなく、退院後の生活環境でも安全に暮らせるかを考えることです。
4. 退院前の説明を受けて、初めて施設探しを考える家族もいる
退院が近づくと、医師や看護師、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカーなどが、ご本人の状態や退院後の生活について話し合う機会があります。
こうした退院前の話し合いでは、現在できることだけでなく、退院後に予想される課題や、必要な支援についても説明されます。
そのとき初めて、ご家族が退院後の生活の難しさに気づくこともあります。
「退院すれば、また一人暮らしができると思っていた」
「こんなに見守りが必要だとは思わなかった」
「自宅に帰してあげたいけれど、何かあったらどうしよう」
それまで漠然と考えていた退院後の生活が、具体的な問題として目の前に現れるのです。
そして、「自宅での生活が難しいのであれば、施設を考えたほうがよいのだろうか」と悩み始めるご家族も少なくありません。
5. 親を自宅に帰してあげたい。でも、一緒に暮らすのは難しい
退院後の生活を考えるとき、ご家族にもそれぞれの事情があります。
親には、できるだけ住み慣れた自宅で過ごしてほしい。
できることなら、自分がそばにいて支えてあげたい。
でも、自分にも仕事があり、家庭があり、日々の生活があります。
遠方に住んでいれば、頻繁に通うことも簡単ではありません。
「一人で暮らすのは心配。でも、私にも家庭がある。一緒に暮らしたい気持ちはあるけれど、現実的には難しい……」
そんなふうに悩む方もいるのではないでしょうか。
親を心配する気持ちと、自分の生活を守らなければならない現実。
その両方の間で、どうすればよいのか分からなくなってしまうこともあると思います。
しかし、家族が同居して介護をすることだけが、親を支える方法ではありません。
無理をして家族だけで介護を抱え込むのではなく、利用できるサービスや生活の場を考えることも、大切な選択肢の一つです。
6. 自宅での生活が不安なときに考えたい選択肢
退院後の生活に不安がある場合、すぐに施設への入所を決める必要はありません。
まずは、本人の状態や希望、家族ができる支援の範囲を整理し、どのような生活が現実的なのかを考えてみましょう。
例えば、次のような選択肢があります。
- 自宅で介護サービスを利用する: 訪問介護や訪問看護、通所サービスなどを組み合わせて生活を支える
- 見守りや生活支援を活用する: 緊急通報装置や配食サービスなど、地域で利用できる支援を検討する
- 介護施設への入所を検討する: 本人の状態や必要な支援に合った施設を探す
- 一時的な宿泊サービスを利用する: 状況に応じて、短期間の宿泊サービスなどを検討する
どの方法が適しているかは、本人の身体状況や認知機能、医療的な支援の必要性、家族の状況などによって異なります。
退院後の生活について不安があるときは、退院支援の担当者や医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどに相談し、具体的な方法を一緒に考えていきましょう。
まとめ|退院後の生活に不安を感じたら、早めに相談を
入院前は一人で生活できていた親でも、病気やけがをきっかけに、退院後の生活に支援が必要になることがあります。
また、身の回りのことができるようになっていても、一人暮らしを安全に続けられるとは限りません。
だからこそ、退院後の生活を考える際には、本人の身体機能だけでなく、日常生活の安全性や、家族がどこまで支援できるかも含めて考えることが大切です。
「親を自宅に帰してあげたいけれど、一人暮らしは心配」
「自分が同居して介護するのは難しい」
そんなときは、一人で悩まず、病院の退院支援担当者や地域の相談窓口に相談してみてください。
自宅に戻ることだけが正解ではありません。本人にとっても家族にとっても、無理なく安心して暮らせる方法を探していきましょう。
